「寄生虫なき病」がめちゃくちゃ面白い
衛生環境の改善に伴う新しい病は原因なる菌、ウィルス、寄生虫などが存在することではなく、彼らが存在しなくなったことが原因ではないかという研究をまとめたなかなか面白い本を読みました。
高校時代の生物の先生が「生物に関する学問は分かっていることよりも分かっていないことのほうがはるかに多い」なんて話をしていたけど、そんな20年くらい前からみて生物に関する学問は日進月歩で進んでいるんだろうけど、まだまだいろんなことが明らかになっているんだなってのを改めて確認した本でした。
さて、この「寄生虫なき病(AN EPIDEMIC OF ABSENCE 不在による病)」の著者は自身が自己免疫疾患を患い、試しにアメリカ鉤虫に感染してみる話から始まります。
この出だしで面白そうだと思った人はもう買ったほうがいいです。間違いなし。よしかわはどこかでそんな感じで始まる書評を読んだだけで注文してしまいました。
では無く、現在増えているアレルギー、喘息、免疫疾患などの病が先進国で多く、途上国で少ないのはなぜか。
一つの可能性として原因となる菌なりウィルスが存在するわけではなくて、本来他ないで共生関係にあるはずの菌、ウィルス、寄生虫などが衛生環境の改善により体内に存在しないことによりそれらの病が起きている可能性を示すデータが次第に明らかになりつつあるという非常に興味深い話が次々と出てきます。
内容も興味深いのですが、この研究に出てくる場所が失礼ながらすごく興味深い。
その昔フィンランドだったところが第二次大戦後にソビエトの領土となったカレリアという地域があるんだけど、ここの住人は遺伝的にはフィンランドの人と変わらないのに、衛生状態がフィンランドとロシア領とではまるで違う影響のせいかアレルギーや免疫疾患の有病率にものすごい差があるとか、そんな話がいろいろ出てきます。
また、作者の試したあえて寄生虫に感染する話だけど、これも最初に試したのは日本の科学者がボルネオのアレルギーの少なさと寄生虫感染割合から関連があるのかと試しに本人がサナダムシを飲んで花粉症が改善した話があるらしく「日本人!」って驚きと胃潰瘍の原因かとピロリ菌を飲んでみた話でとかお思い出す…
ではなくて、それを聞いたアメリカ人(?)が試してみたら確かに乾癬が改善したけど、サナダムシは成虫になると排卵のための袋を肛門から出すため、暑くもないのに足を汗のようなものが滴り心理的に耐えられなくなり、心理的に抵抗の少ない寄生虫を探して鉤虫にたどり着いた。
とかためになる(?)寄生虫感染話があったり、そんな治療法があるのかと驚くような治療とか色々な話が出てきます。
まぁ、こんな感じで色々な研究やデータをもとに原題の通り「不在による病」というか本来共生関係の上にバランスが取られていた免疫系が彼らの不在により暴走している可能性などについて、様々な病の分野で徐々に理解が進んでいることがまとめられています。ただ理解が進みつつある段階で何か答えたが出ているわけではありません。
それでもこの病の人が藁にもすがる感じであえて寄生虫感染する人の体験談、そして本人の体験談もあり非常に多面的な内容なのも興味深いです。以前にALSの患者がプラセボ(医者から渡された薬という思い込みで症状が改善してしまったり、薬自体の効果がないことを調べるために効果のない薬を飲んだグループと比較をするときに出る偽の薬)を止めてくれという訴えをしている話を聞いたことがあるんですが、同じような非常に悩ましいことを思い出したりしました。
ということで、衛生環境の改善という近年の取り組みによるプラスの面が同時にマイナスの影響もあったのではないかということが分かりつつあるという話でとても興味深かったです。507ページと分厚い本の上、なんらかの結論が出る話ではないのですがお勧めです。